ゲイがつらつらと書くブログ。

最後の指切り

彼を嗅いだら、あの頃とは違う匂いがした。 ――関西に転勤になりました。メッセージをSNSに残して彼は遠くへ行った。お互いが20代のときに、何度か会った。その後は、流れてくる写真や動画で近況を見るだけだった。半年前にたまたま時間が会い、池袋で食事を…

思い出はコントロール

シーツの染み。斜めのテーブル。埃を被った弁当箱。 ひどく寒い雲ひとつない朝の空。函館フェリー乗場の土産屋。新宿アイソトープ楽屋の鏡。 「恋人ができたら、一緒に見たい景色とか行きたい場所とかあるじゃん」友人は言い、私は目を閉じて唸る。 「前に付…

手を振る角度は30°

茶道部がマラソンでいつも以上にパワーを使うように、人見知りは人と会うのに相当のパワーを使う。出会い系アプリの「こんにちは」で手に汗をかく。「会いましょう」なんて日には、待ち合わせ場所まで全身から汁が吹き出る。そんな私が一滴も体液を出さずに…

ドッペルの筆先

世界に一つだけの花。毎日がスペシャル。人生は紙飛行機。 あなたは特別なんだよ。ひとりひとりが違っていていいんだよ。沢山の歌が伝える。つまり私は特別なのである。 盲点の窓、という言葉がある。自分は気づいていないが、他人は知っている自分。これま…

立ち漕ぎをやめた日

田舎の高校に通っていた私は自転車通学だった。片道1時間かけてペダルを漕ぐ。時々、帰り道の自販機で缶ジュースを買って、飲みながら帰っていた。自販機のラインナップの隅には、ハテナマークがあった。 なにがでるかはおたのしみ 指先が、ファンタとハテナ…

お揃いのピンマイク

「僕が見ている世界の話をしようと思う」リアリストの友人がスピな感じで切り出した。私はお菓子をもぐもぐしながら次の言葉を待つ。「誰かの話を聴いたりすると、頭の中で映像で再現するんだよ」もう一人の友人も黙ってコーヒーを飲む。 その友人は凝り性で…

シャボン玉の憂鬱

いつも突然だった。幼稚園の時は気づけば体操教室に通っていた。小学校にあがるとピアノと水泳を習っていた。どれもやりたいと言った記憶が無い。 父親は、サッカー部だった。小学3年生になると、サッカークラブに入団できる。水泳かサッカーの2択を迫られた…

午前二時のチャーハン

私が眠れないときに数える羊は、数えるタイミングで牧場の柵をジャンプして隣の牧場へ移動する。すべての羊が白く、ツノがある成人である。目を閉じてから数えていたら二千匹にはなっているであろう時間に、目を開けた。横では、羊飼いが静かに寝息を立てて…

鏡越しのダビデ

ピーマンが美味しい。生ビールが身体に沁みる。他人の成長に感動する。 サウナでととのう。私は未だに理解できていない。銭湯で理解できるのは、男の身体のよさだけである。 幼少期から、自然とソレを目で追っていた。プールの着替え中。銭湯。芸人が脱ぐバ…

見えないガールフレンド

子供の頃、友人から貰うお土産で一番困ったのは、キーホルダーだった。趣味が合わなくても、貰ったからには付けなければ失礼な気がして、学生時代の私の鞄には百鬼夜行がぶら下がっていた。違和感があっても時間が経てば愛着が沸くと信じていた。私は、高校…

知らない記念日

小学6年の担任は、毎朝必ず出席番号順に呼名をしていた。学校の出席番号順は誕生日順で、私は大体最後のほうだった。自分が呼ばれるまで、名前を追っていく。半年も経つと、クラス全員の名前と順番を覚えていた。人の誕生日だけは、よく覚えていた。 高校で…

10分前のチョコレート

「あなたはパラディンなの」網の上のカルビをひっくり返しながら、女は言った。私は黙って話の続きを待つ。「パラディンはみんなの盾になって攻撃から守るの。元は武闘家だから、戦士みたいに武器は持たないの。そうして傷ついたら、自分の周りに壁をつくっ…

シーツの中の銀河

夏は海とプールの季節。小麦色の肌ではしゃぐ若者たちは、全身で夏を満喫しているなと思う。それを横目に、私は日焼け止めを全身に塗りたくる。色白で、日焼けすると黒くならずに赤くなる。 部屋の引き出しにはTシャツがそれなりにあるが、殆ど白いシャツで…

歪んだカーテンレール

中学では、理科を教えていた。社会人採用枠の試験は、論文と面接だけだった。本採用ではなく臨時採用だった。臨時採用は本採用の配属が決まったあと、空いた枠に配属される。そのため配属の決定が遅い。そもそも決まる保証もない。 声がかかったのは、桜が咲…

換気扇の下で

違うんだよなぁ。煙を吸う。 私が書きたいことって、こういうことなのかな。最近の文章は気取ったエッセイみたいで、なんだか気恥ずかしい。もっとこう、頭からっぽにして笑えるものを書きたい。煙を吐く。 ふと思い立ってChatGPTにこれまでのブログ記事を読…

とうもろこしの溜息

死を初めて実感したのは、小学生のとき。火葬場で棺桶に釘を打ち、煙を眺め、骨壷に骨を入れる。この人はもう二度と戻らないんだと気づく。あの頃は、なぜか自分だけはこうならないと思っていた。 死に興味が湧き出したのは、中学生のとき。ミステリーで殺人…

泣けないペペロンチーノ

友達とご飯に行ったり、誰かとデートを計画したとき、たまにこう聞かれる。「好きな食べ物は?」ラーメン、ハンバーグ、メロンパンと私の口は反射で答える。しかしこれは違う気がする。 相手が聞きたいのは「一緒に何食べる?」ではないのか。 それに気づい…

斜めのテーブル

PayPayでお願いします、とレジでスマホを出す。表情筋の活動が最小限の店員が、無言でバーコードをスキャンする。やっぱりQR決済って便利だと思う。浸透し始めてからも、私はしばらく現金派だった。手続きが面倒だったのである。 お洒落な部下が職場で服の話…

ヘルニアの恋

眼鏡はエロい。かけてる時もエロい。外す瞬間が一番エロい。なんなら外したあとの枕元の眼鏡もエロい。そんなことを微塵も思わせないような医者が、眼鏡をくいっと上げて言った。 「治りません。怪我ではなく老化なので」 マジっすか、と二十歳を過ぎたばか…

風邪ひきのミューズ

インフルエンザが大流行したこの冬。電車の中でマスクをしている人の数が春の訪れを知らせる。クジ運が悪い私は他人からウイルスをプレゼントされやすい。誰に見せるでもないラウンド髭を隠すためにも、私はマスクをする。ゲイであるという自意識とメタファ…

ピアソラを仰げば

早生まれは幼少期に不利だと言われる。戦争の食糧難を経験した祖父にしこたま食べさせられた3月生まれの私は、小学生の頃、クラスで一列に並ぶと後ろのほうだった。 サッカーではタックルすると相手をふっとばした。質量が大きいほうがエネルギーが大きいと…

セミダブルの残像

ハッピーエンドはエンドではなくスタートだと思う。結ばれるまでではなく、結ばれてからが始まり。20代の私がそれに気づくには、だいぶ時間を要した。何人もの恋人を傷つけてきた気がする。 10年ほど前、年下の恋人がいた。 彼は料理が上手だった。週に何度…

2本目のバナナ

デブといったらダイエット。ダイエットといったら自炊。自炊といったらスーパー。スーパーで買うのはバナナ。 夏に己の限界を突破し、歴代体重オリンピックで金メダルを獲った。満員電車の汗染みが、おねしょを干してる布団のよう。恥ずかしいのに隠せなくて…

ごちそうさまがきこえない

最寄り駅の改札を通る前、いつも少しだけ視線を上げる。次の電車が来るまでに三分以上あれば、改札前のコンビニに寄る。 52番をふたつ。 右手でパー、左手でチョキを出しながら伝える。目の前に四角い箱がふたつ置かれる。どうも、と言うと同時にポケットへ…

選ばれなかったものたち

仕事を終えて帰った部屋で、洗濯物の山が私におかえりと囁く。この週末に君たちを洗濯するタイミングは何度かあった。けれど私の指先が選んだのは、洗濯機のボタンではなく、パソコンに繋がれたマウス。ごめんね、選んであげられなくて。 「自分との約束には…

トロイメライの回転木馬

1日の中で一番嫌な音は、決まって目覚まし時計が奏でる。朝食よりも布団の中の時間を大切にしたい私は、毎朝出勤すると職場のデスクで朝食を摂る。PCの電源をオンにして、ログイン画面が表示される前に、コンビニの袋から買った物を出して、袋は自席のごみ箱…

〜拝啓 六年前の君へ〜

コンビニのクーポンで缶チューハイが無料で貰えたのだが私は滅多なことでは家で飲酒をしない。今夜は、冷蔵庫に眠っていた2つのうち1つを取り出した。小気味よい音を立てた缶に、口をつける。4%のアルコールとマスカットの香りが、私の感覚を徐々に揺らし…

パンドラのタイムカプセル

-----前回のあらすじ----- 誰ともセックスをせずに2年が経過した私。これではいけない、と良くわからない焦燥感に苛まされながら、ウリ専を予約するも神様の悪戯により失敗に終わる。果報とセックスは寝て待てと言い聞かせ自制心と仲良くしながら、ふと昔の…

ノーセックス・ノーライフ

「昔、隣に住んでたおばちゃん、覚えてる?」実家で食後にコーヒーを飲みながら母に訊かれた私は、覚えてるよと生返事をした。「たしかこないだ、亡くなったんだっけ」「突然だったのよ、心不全だって」残念だね、と言いながら顔を思い出そうとしたが、優し…

髪を切る日

この春から職場の責任者が変わり、色々なことが目まぐるしく動いていった。 前の責任者は良くも悪くも空気のようで変化を嫌う人だったが、新しく就任したその人はビックリするほど頭の回転が早く、物事を即座に判断する。これまで停滞していたことが動き出し…

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