一度だけ抱きしめて

友人と出会って1、2年経った頃だろうか。
は友人に旅行に誘われた。

「来月、俺の誕生日なんだけど
 一緒に旅行に行かない?」

行き先は某避暑地。
1泊2日のお泊り旅行だった。

「でもさ、誕生日なんだから
 私じゃなくて彼氏と行ったほうが
 良いんじゃないの?」

「そこなんだが」

友人には当時彼氏がいた。
しかし遠距離恋愛であったので
も会ったことがなく、
どんな人物なのかもよく知らなかった。

「最近上手くいってなくてさ
 しばらく連絡もとってない」

元々は彼氏と2人で行く予定だったらしく
旅行の計画を1人で立てていたのだが、
関係が微妙なので一緒に行くのを
やめて他の人を誘うことにしたらしい。

「誕生日だし、それまでに仲直りして
 彼氏と行けそうだったら行ってね」
ということを付け加えてOKした。

 

旅行の1週間程前くらいだったか。

「彼氏と別れた」

と友人から連絡があり、
旅行の相手は私となることが確定した。

私の予定では、友人と彼氏が仲直りし
土産を貰うとともに
面白い話でも聞くはずだったのだが。

別れてしまったものは仕方がない。

 

旅行当日。

移動のためにレンタカーを借りた。
私はペーパードライバーなので
友人が運転をする。

なんだこれは。

まるでデートじゃないか。

私が焼いてきたCDをBGMにしながら
助手席で窓の外を眺めていた。

 

 

夕飯を食べて泊まる所に辿り着いた。
静かな林の中にある
ペンションのようなところだった。

随分洒落たところだなと思いつつ
ここは自分が来るべき所なのか
そんなことを思った。

それは今日車に乗った時からずっと
私の頭の片隅でグルグルしていた。

 

本当に自分が来て良かったのか。

 

もっと他に良い人がいるんじゃないか。

 

誰でも良かったのか。

 

余計なことを考えてしまうのは
私の悪い癖だ。
もちろん楽しかったし
食べたご飯も美味しかった。

友人も、楽しんでいるように見えた。

 

 

夜がきた。

それぞれシャワーを浴びた私達は
ツインベッドに各々横になった。

部屋の電気を消すと、
月と外灯の光とカーテンで
部屋の中が薄い青に染まった。

 

目を閉じると風の音と虫の声。
静かな夜だった。

 

「寝れそう?」

 

隣のベッドから友人の声がした。
友人はすぐには寝付けないようだった。

「まだ、寝れないと思う」

本当はちょっと眠かったけど
友人は何かを話したいようだったので
そう返事をした。

 

 

 

「さみしい」

 

 

 

そうか。
そうだよね。

 

「こっちに来て」

 

「うん」

 

私が友人のベッドに潜ると
友人は私の胸に顔をうずめた。

なんて言えばいいのかわからなくて
ただ黙って、肩に手を回した。

 

 

友人のことを抱きしめたのは
彼が私に弱みを見せた
あの夏の夜だけである。