ゲイがつらつらと書くブログ。

好きが来る前に

食にあまり拘りが無く、私は食べたいものを食べたいときに食べるので、案の定ブクブクと太り、年明けに行った健康診断で体重計に乗った際に自身の歴代最高記録を叩き出し、軽く眩暈を覚えた。ゲイ的にはガッチリでもデブでも無いしできれば細い体系でありたいので、ただのブタになってしまうと危惧した私は、2月の後半から食事の量を減らし、家で筋トレを始めた。外食が多かったので、節約も兼ねて夕飯を家で自炊することが多くなった。

とはいえ料理がそんなに好きではない私は、自炊と言っても人が聞いたら鼻で笑いそうなことしかしない。パスタを茹でて出来合いのソースをかけるだけ、これだけである。「パスタは炭水化物の中でも太りにくい」という、いつ聞いたのか本当かどうかわからないような記憶だけを信じてパスタを茹でている。しかもかけるのはパスタソースだけではなく、1個100円もしないレトルトのカレーだったりもする。本当はその上にチーズを乗せてレンチンしたいところだが、カロリーを考えてチーズという選択肢は捨てることにした。

近所のスーパーに行ったら、コロナの影響で乾麺が軒並み売り切れていて、その中で唯一残っていたゴツめのパスタ1kgを3袋と、パスタソースとレトルトカレーをいくつか買った。職場の昼休みに朝買ってきたパンを頬張りながら、そんな買い物事情を同僚の主婦と会話するのが結構楽しいのだが、最近の食生活を話したときに「パスタにレトルトのカレーかけるとかありえない」と笑われた。また、家には普通の鍋しかないので長いパスタを茹でるのが結構面倒なんですよねー急がないと入りきらない部分が焦げてくるし、と話してたら「パスタ半分に折って茹でればいいんじゃない?」とアドバイスを貰ったのだが、長くなかったらなんかパスタ感がなくなりませんかねと言ったら「カレーかけてる時点でパスタ感も何もない」と私の意見はバッサリ切り捨てられた。ちなみにズボラな私はフォークを出したり洗うのが面倒なので、茹でた菜箸を洗ってそれで食べてるのだが「パスタを箸で食べるとか、ウチのじいさんと同じ」と私のパスタ生活はボロ糞に言われた。

それにもめげず、連日パスタを茹でているのだがゴツいパスタは茹で時間に9分もかかり、茹で上がるまでの時間、物思いに耽ることが多い。ここ1週間くらいは、アプリで出会った人のことを考えていた。

 

1月に付き合っていた人と別れてから、とりあえずアプリに登録してマッチングの機能だけ楽しんでいた私だが、その中でも会ったみたいと思う人が居たのでメッセージを送り、ご飯を食べに行ったのが始まりだった。私はハキハキやウェーイとは無縁なので、落ち着いた感じのとは雰囲気が合い、会話も弾んで楽しく過ごすことができていた。ただ私と彼の間で大きな壁があった。

は私の一回り年下なのである。

私も彼も早生まれだったので、丁度12歳の差があり、つまり干支も同じ。年下と付き合うことはあったとはいえ、ここまで下だったことはこれまで無かったので、戸惑う部分や正体不明の背徳感があった。それでも彼はあまり気にすることもなく、私の年上というステータスをややイジりながら、会話をしてくれていた。教員時代に生徒から散々イジられキャラとして過ごしてきたので、特に不快に思うことはなく、むしろ楽しく食事を進めた。

食事が進み、私はお決まりの質問をした。

「いまお付き合いしている人はいるんですか?」

彼は少し回答に躊躇いつつも「います…けど良くわからないです」と答えた。

これは彼氏とは別れないけどセックスはしたいということなのか、と思ったが、私は特に彼氏もセフレも急を要していなかったので、棚に上げることにした。友達が少ない私にとって、楽しく過ごせる友達が増えればそれはそれで良いと思っていたので、彼が今の彼氏とどうなのか、何が良くわからない状況なのかは敢えて聞かなかった。ご馳走するよと私が言っても財布の紐を堅くすることはなく「自分の分は出します」と必ず自分の分は自分で払おうとし、もう少し甘えてくれてもいいのに、と思いながら私が気持ちばかり多めに支払った。

 

それから、私と彼は毎週末一緒に過ごした。

一緒にお風呂に行ったり、郊外を散策したり、なんでもない会話をしながら2人で出かけた。一度だけバスの中で手を繋いだが、それ以上のことは特に無かった。それでも楽しくて、毎週末の予定が決まるたびに、平日の仕事を頑張ろうという気になれたし、週末に予定があるって幸せだなと感じていた。いつからか、彼のことを恋愛の対象として少しずつ意識していったように思う。付き合ったらここ行きたいなとか、クリスマスはこんな風に過ごしたいなとか、パスタを茹でながら考えるようになった。けれど彼には彼氏が居るし、それを引き離してまで付き合いたいとまでは思わなかった。何より彼は若いしまだまだ遊び盛りだろうけど、ここまで年が離れていたら遊ばれてもいいかなと思っていた。

そんな風に過ごして1か月ほど経ち、コロナの影響で人混みに行くのがなんとなく憚られたので、家で映画でも見ようかという話になり、彼は実家暮らしだったので、彼が私の家に来ることになった。人が家に来ること自体久しぶりだったので、年末の大掃除をサボっていたツケが回ってきたなと思いながら、家のありとあらゆるところを掃除し、なんとか彼を家に招き入れることが出来た。

結論から言うと、彼とセックスをした。

あまり具体的に書くと生々しいので避けるが、相性は悪くはなかったのではないかと思う。事後はご飯を食べに行き、また来週会おうねと言葉を交わして別れた。

 

次に会う予定の日を決め、どこに行こうか色々考えていた予定日の2日程前、彼から連絡があった。

「少し体調を崩してしまったので、今週末はキャンセルでも良いですか」

ガッカリしたが、この季節だし体調が悪くなってはまぁ仕方ないと思い、身体を労わる言葉を送り、何も無い週末を過ごした。

週明け、彼はアプリにTwitterのIDを載せていたので、具合悪いのをボヤいているかと思って何気なくアカウントを見ていたら、週末はどうやらイツメンの友達と飲んでいたらしかった。体調が悪いところ無理に付き合わされたのかどうかはわからないが、見なかったことにして「体調は良くなりましたか?」とだけ連絡をしたら、「だいぶ良くなりました!」と返事が来たので、良かったです、と一緒に次の週末の予定を聞くことにした。すると「予定がわかったら連絡します!」と返事を貰った。特に私の予定を優先して欲しいわけではなかったが、なんとなくダメそうだなと思いながらも、わかりましたそれでは連絡をお待ちします、と返事をした。

それが彼との最後のやりとりになり、その後連絡が無いまま、週末を迎えた。

何がいけなかったのだろうかと考えたが、考えても仕方の無いことだったし、残念な気持ちもあるが、思っているほど傷ついても気にしてもいない自分がいた。彼を好きになっていたら、きっともっと苦しんでいただろうし、モヤモヤして眠れない日が続いていたかもしれない。とはいえ、予定があって忙しかったのかもしれないし、何か理由があったのかもしれないと、週末にアプリで彼の様子を見てみようとしたところ、そこに答があった。

彼はアプリで「今すぐ会いたい」ハウリングをしていた。

私は選ばれなかったのだ。

おそらくもう彼から連絡が来ることは無いだろうと確信した私は、LINEの友人リストから削除し、アプリでも彼をブロックした。この状況で私から彼にコンタクトをとることが彼にとって良いことではないし、未練がましい男だとも思われたくなかったので、短い間の良い思い出として心の中で処理することにした。少なくとも彼と出会えたおかげで私は健康にも気を遣い、徐々に体重を減らすことに成功しているので、感謝をしている。若い頃、同じように連絡をとらなくなってしまったことがあったことを思い出し、私には非難する権利など持ち合わせていないことを考え、今度は自分の番なんだなとしみじみ感じた。万が一また連絡が来るようなことがあれば、次からは一人の友達として接しようと思ってはいるが、果たして自分にできるだろうか。

 

ダイエットを始めて身体が整い始めてから、少しずつ自分に自信が持てるようになってきた。とはいえまだまだこれからではあるが、成果が目に見えるのはモチベーションに繋がる。そんな中、以前友人が話していたことを思い出した。

「前に家で何人か集まって飲んだりゲームしてた時にさ、ゲームで『自分の顔が良いと思っている人』を自己申告しなきゃいけないってのがあったんだけど、7~8人居て良いと思ってた人が自分ともう1人しかいなかったんだよね」

友人らしいなぁと思って聞いていたが、私も自分の顔は嫌いではない。昔は自分に自信が無かったのでそんなことは言えなかったが、いまこの年齢になって「自分、悪くないじゃん」と思えるようになった。ブタになりかけたここ最近の私に関しては目を瞑りたいところだが、思い返せばそこそこモテていたこともあった。そんな私なので、アプリの彼にどう思われようが、連絡がなかろうが、他に良いと言ってくれる人がどこかにいるんじゃないかと思っている。だから自分を磨く機会をくれた彼に感謝しているし、あの時付き合っておけば良かったなといつか思ってもらえるくらいになっていたい。

そんな風に自分に、そして自分の生き方に自信をもっていきたいし、おそらく友人は自信をもっているのだろう。それが鼻につく人もいるのかもしれないが、私はそういう友人が逞しくて羨ましい。友人のように沢山の拘りは無いけれど、こうありたい、という自分がなんとなく見えてきた気がする。

 

そんなことを沸々と思いながら、パスタを茹でる。パスタを折って茹でるのに抵抗があったが、いざやってみると茹でるのがとても楽だった。これで寸胴鍋を買う理由はなくなったが、折る時にパスタが周囲に多少飛び散るのが難点である。そのことを同僚の主婦に話すと「普通に折るんじゃなくてねじるようにすると飛ばないのよ」と、ぽたぽた焼きの裏面にあるおばあちゃんの知恵袋ばりのアドバイスを貰い、ねじりながらパスタを折るようにしているのだが、量が多いのかやり方が下手なのかまだ周囲に飛び散る。しかもグツグツいっている鍋のすぐ上でやるものだから、沸騰した水が跳ねて手を火傷しそうになる。

まだまだコツが要りそうだが、このパスタが飛び散らずに上手く折ることができるようになる頃には、また新しい出会いがあるかもしれない。その時には、今より素敵な自分で居られたらいいなと、今日もパスタにレトルトのカレーをかけ、箸で食べるのである。

 

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