死を初めて実感したのは、小学生のとき。
火葬場で棺桶に釘を打ち、煙を眺め、骨壷に骨を入れる。
この人はもう二度と戻らないんだと気づく。
あの頃は、なぜか自分だけはこうならないと思っていた。
死に興味が湧き出したのは、中学生のとき。
ミステリーで殺人を読んで、映画で死体を見て、文庫本で死に方を調べた。
永遠など無い現実に背筋を震わせた。
本や画面の中の話で、自分には関係ないと思っていた。
死にリアルさを求めたのは、大学生のとき。
インターネットで、リアルな写真や映像を見た。
人肉は、とうもろこしみたいな味がする、と誰かが書き込んでいた。
なぜかその一文が目に焼きついて、消えなかった。
「タバコはだいぶ前に辞めたんだ」と年上の男は言った。
それじゃ遠慮しようかな、と私がポケットにしまうと、彼は「吸ってくれ」と言う。
キスしたらタバコくさいよ、と私が言うと「そのほうがいい」と彼は物欲しそうな顔をした。
変なの、と笑いながら私は煙を吐いた。
「暑くて汗だくになっちゃったよ」と年下の男は言った。
今日は暑いよね、と彼を部屋に入れた。
冷たいお茶でも飲むかい、と背を向けた私に彼は抱きつく。
「それより前に」と背中越しに聞こえた。
セミの声の合間に、鼓動が伝わる。
振り向きざまのキスは、ミントの香りがした。
「おかえり、お疲れさま」と恋人は言った。
ただいま、と私はドアの鍵を閉める。
ご飯はどうしようか、とカバンを床に置く。
スーツを脱ぐ前に、ベッドに押し倒される。
おいおい、と言いながら彼の腰に手を回す。
キスは、ほんのりとうもろこしの風味がした。
彼の頬を齧ったら。
とうもろこしの味がするだろうか。
隣で寝息を立てる彼に顔を近づける。
彼は、溜息のように深く呼吸をしていた。
やっぱり、とうもろこしの風味がする。
ということは、自分の肉は美味しくないな。
私はニコチン味の溜息をついた。