ゲイがつらつらと書くブログ。

見えないガールフレンド

子供の頃、友人から貰うお土産で一番困ったのは、キーホルダーだった。
趣味が合わなくても、貰ったからには付けなければ失礼な気がして、学生時代の私の鞄には百鬼夜行がぶら下がっていた。
違和感があっても時間が経てば愛着が沸くと信じていた。
私は、高校の時に彼女と付き合うことにした。


男子校の教室は、常に飢えていた。
吹奏楽部の部室にもエロ本が積まれていた。
たまに他校と一緒に演奏することがあったのだが、我々男子部員は女子がいるだけでブレスが深くなった。
私が息を乱すことはなかった。
同じ楽器の女子とすぐに仲良くなった。

彼女は「かあさん」と呼ばれていた。
部長で、やんちゃな部員を叱り飛ばしていた。
昭和なら割烹着を着ておたまを持っていただろう。
私の音と相性が良かった。

付き合って欲しい、と言われたのはいつかの練習のあとだった。
彼女に練習場の裏に呼び出され、典型的な告白を聞いた。
私は自分に嘘をつくことにした。
その日、生まれて初めて女の子と手を繋いで帰った。
思ったよりも、他人の掌だった。

バレンタインに彼女と駅前をブラブラした。
公園のベンチで、彼女は青い手編みのマフラーをくれた。
「頑張ったんだけど、間に合わなくて」
マフラーは少し短くて、結ぼうとすると首が絞まった。

夏のコンクールではライバル校だった。
私は勝ち進み、彼女は敗れた。
会場で泣いている彼女に、声をかけられなかった。
私を見つけた彼女は、涙を隠さずに言った。
「頑張ってね、応援してるから」
ありがとう。がんばるね。
私の声は震えていた。

彼女は東京へ、私は北海道へ進学することになった。
東京で、頑張ってね。
役目は果たしたと思っていた私に、彼女は言った。
「遠距離でもいい。別れたくない」
どんな言葉を返したか覚えていない。
さよならを棚に上げて、私は北へ向かった。

時々メールと電話をする程度だった。
彼女がいると誰にも言わなかった。
北海道で、何人もの男と会った。
年上の彼氏ができた。
二股できるほど器用ではなかった。

彼女が北海道に来た。
夜に同じベッドで寝た。
彼女が寄り添ってきた。
柔らかさが、残酷だった。
私はベッドから出て座布団を枕にした。
他の男とは、何度も寝れた。

また別の男を好きになった。
私は彼女に電話をした。

「あなたがゲイでもいい。別れたくない」

携帯の電波は、彼女の声を私に聞かせた。
私はずっと下を向き、濡れていく床を眺めていた。


東京で就職して何年か過ぎた頃、彼女から連絡があった。

「結婚します。結婚式に来て欲しい」

 

新郎は、お見合いで出会った年上の男らしい。
少しだけ、私と似ていた。
彼女に新郎を紹介された。

幸せにしてやってください。
よろしくお願いします。

彼女はそんな私を見て、高校時代と同じようにガハハと笑った。


数年後、私の実家から近いところに今は住んでいると連絡があった。
帰省のときに、彼女の家に寄ると
彼女と、旦那と、息子と、娘がいた。
「お腹にもうひとりいるの」
子供たちを叱り飛ばしながら、彼女は笑った。


実家の倉庫には、私が家を出る前に整理した箱がある。

初めて買ったCD。
お気に入りだった雑誌。
誰かから貰ったキーホルダーたち。

あの寒い日に巻いた
少し短い青のマフラー。

帰りの車の中で、ウインカーの音を数えた。

 

 

 

 

     

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