私が眠れないときに数える羊は、数えるタイミングで牧場の柵をジャンプして隣の牧場へ移動する。
すべての羊が白く、ツノがある成人である。
目を閉じてから数えていたら二千匹にはなっているであろう時間に、目を開けた。
横では、羊飼いが静かに寝息を立てて肩を揺らしていた。
寝息に被せるように大きめの溜息をつく。
上着を手に取り、靴を履いて、私は羊小屋から出た。
静かな夜だった。
何度目の夜廻りだろうか。
コンクリートを踏む音が夜に響く。
時折、車のヘッドライトが私の影をつくる。
同じ時間を過ごせば大丈夫だと思っていた。
振り返ると、羊小屋は見えなくなっていた。
「こんな遅くにどうしたの」
ドアを開けながら、友人は私に言った。
ごめんね、そう言って中に入り、ドアの鍵をかけた。
部屋のフレグランスが、冷えた頬を温める。
私はソファに身体を預けた。
静寂の中に、ぷかぷかと言葉を浮かべる。
吐いた音は壁に跳ね返り、
観葉植物や畳んでいない洗濯物や戸棚の漫画に吸い込まれて消えていく。
音を掻き消すように、友人はフライパンに火をつけた。
ごま油の香りが、私の言葉を包んだ。
「ありあわせで作ったけど」
カタンとテーブルに置いた。
スプーンで口に運ぶ。
こういう時のご飯は、なぜか身体をふるわせる。
「美味しい?」
返事をせずに、私は一粒残らず平らげた。
「泊まっていく?」
私はかぶりを振った。
小屋へ戻らなければ。
羊飼いが目覚める前に。
何匹目の羊になるか数えながら、夜の牧場へ溶けた。