彼を嗅いだら、あの頃とは違う匂いがした。
――関西に転勤になりました。
メッセージをSNSに残して彼は遠くへ行った。
お互いが20代のときに、何度か会った。
その後は、流れてくる写真や動画で近況を見るだけだった。
半年前にたまたま時間が会い、池袋で食事をした。
変わらないね。
おじさんになったよ。
彼は私の隣で寝ながら笑った。
春から、そっちに行くことになったよ。
東北に住んでいる年下の子から、メールが来た。
彼が旅行で来た時に、一緒に街を歩いた。
パンダ、かわいいね。
こっちで働くことにしたんだね。
笑った彼は、私の部屋に泊まりに来た。
年下の肌はハリが違った。
私と歩いた上野を、今度は誰と歩くのだろう。
クラブで知り合った仲間たちは、私の家によく溜まった。
駅から徒歩15分、葛飾にあるワンルームで、所狭しと雑魚寝をした。
今度、二人きりで会おうよ。
秘密だよ。
語り明かして夜が明ける。
一緒に毛布に包まる。
日比谷線のラッシュに揉まれる。
着ているワイシャツを嗅ぐと、ほんのり彼の匂いがした。
メールを打った。
就職先は、北海道でも地元でもなかった。
大学の仲間たちが、最後に駅に見送りに来てくれた。
電車が動き出すと、雪のホームで、窓越しにいつまでも手を振ってくれていた。
見えなくなるまで私も手を振り、ひとり、乾いたホームに降りた。
ぬるい風が吹いていた。
吐いたタバコの煙は、消えていった。
空の色は、同じだった。
「またね」
指は絡んだまま。
環状線が、続いていく。