ゲイがつらつらと書くブログ。

行き先が決められない

人と会うのが苦手だ。

といっても会うこと自体は苦手でなく
初対面でも割と会話はできる方だと思う。

 

行きたい場所が無いのだ。

 

幼い頃から絵を描いたり
ピアノを弾いたりゲームをしたり
とにかくインドアな生活をしていた為か
外に遊びに行くことについては
そもそも行きたいところがないので
計画すら立てられない始末である。

かといって外に行くのは嫌ではなく
誘われれば尻尾を振って付いていくし
行ったら行ったで楽しめるのだ。

 

ただ、何をしたいかと訊かれても
アレがしたいコレがしたいという欲求が
他の人よりも極端に少ないと思う。

でもSNSとかで誰かがどこかで何かして
楽しそうにしている姿を見ると
いいなぁ~とも思う。
が、自分から動く気にはなぜかなれない。

 

友人は計画的に物事を進める。

旅行に行ったり、遊びに行ったり
誘われる時には大体プランがある。
私はそれに反抗することなく動くし
お互いに楽しむことができるので
Win-Winの関係だと勝手に思っていた。

 

GWも間近な4月下旬。
私のスケジュールは空っぽだった。

 

出不精な自分が今年目標としていた
「月1でナイトに行く」というのは
早々と3月で頓挫してしまい
どこか行きたいけど相手も場所も無い
という崖っぷちの状態であった。

 

その昔、GWのすべてを使って
CPUを相手に桃鉄を1人で99年やったり
ペルソナをずっと周回していたり
そんな経験もあった私は
最悪1人でもいいかと思いながら
何人かに連絡をしたが時既に遅し。

そうだよね、みんな予定もうあるよね。

ダメ元で友人に連絡をとった。

友人には彼氏がいたので
奴のことだから2人でどこか旅行にでも
行っているんだろうと予想しながら。

「助けてください
 GWの予定が何も無いんです」

友人からはすぐに返事が来た。

「5月3日なら、空いてるよ」

 

神よ。

まだ私は救われる余地があったのですね。

 

「どこか行きたいところあるの?」

「特に希望は無いけどどこかに行きたい」

いつもならここで
「じゃあここ行こうか」と友人が提案し
私がそれに便乗する形になるのだが。

「行きたいところ言ってくれれば
 一緒に行くよ」

 

計画と違う。

しかしここで無いと返すのは危険だ。
いつもの友人の返しではない。

 

たぶん友人に何かがあった。

 

そう直感した私は、
とりあえず幾つかジャンルを挙げてみる。

「温泉」「どこの温泉?」

「映画」「なに観たいの?」

「スカイダイビング」「予約は?」

 

詰みである。

 

しかしまだ4月。
まだ大丈夫、そう自分に言い聞かせて
「考えるから時間をくれ」と伝えた。

 

そこから3日間ほど
仕事よりも頭を使って調べまくった。

何を軸にする?その周りに何がある?
映画よりはどこか特定の所に
行きたいという気持ちがあったので
温泉、を中心に考えることにした。

東京、温泉、日帰り。検索。
成程。しかしGWなので都心は避けたい。
だが郊外の温泉の場合は、
その周辺で他に行くところがあまり無い。

そんな中で1つだけ
GWに適しているかはわからないけど
いつか行きたいと思っていた所があった。

「決めました」

「どこに行く?」

 

 

「高尾山に登る」

 

 

LINEのメッセージの向こう側で
一瞬、息を飲む音が聞こえた気がした。

「登るの?登山?」

「いつか行きたいと思ってたんだ。
 登ったことある?」

「ある」

「え…じゃあ、やめとこうか」

「いや、行こう」

そこからはいつもの友人だった。

服装はこんな感じで
持っていくものはコレで
この時間の電車に乗って
お昼はこの辺で食べて…

相変わらず頼れる友人の計画を
頭を物凄く使って提案した私は
ぼんやりと聞いていた。

 

 

5月3日。当日。

高尾山に向かう電車の中で
友人は話し始めた。

 

 「彼氏がさ
 どこか行きたいって言うんだけど
 聞いても行きたい所が無いって」

 

ああ。

やっぱり。

 

あの時感じた違和感の正体は
こんなところにあったのですね。

「彼氏の気持ちは、わかるよ」

自然と私の立場は友人の彼氏と
同じところになっていた。

 

私や、おそらくその彼氏にとっては
どこに行くかというよりも
誰と一緒に行くかというほうが
大切なのだ。

好きな人とどこかに出かけたい。
けどどこに行けばいいかわからない。
そんな彼氏の葛藤が
手にとるようにわかる。

だから、一緒に行きたいという
その気持ちばかりが先行して
言葉になってしまったんだと思う。

そんな内容のことを、友人に伝えた。

「でもさ…
 少しは考えてもよくない?」

「私もいつも考えてないから
 それに関しては耳が痛い」

「お前はさ、言ったらちゃんと
 考えてくれたじゃん」

めちゃめちゃパワー使いましたけどね。
計画立てる魔法があったとしたら
1年分くらいのMPを消費したレベル。

 

友人の彼氏には会ったことがないし
どういう人物なのかはわからないけど
その彼氏も自分と同じように
四苦八苦しながら考えていたのだろうか。

「いつか彼氏が計画した場所に
 二人で一緒に行けたらいいね」

そんなことを友人に言った気がする。

 

行きたいところに行くのって
私にはものすごく大変なことだけど
案外、悪くないのかもしれない。

 

ホームに降りた私は
噛み締めるように深呼吸をしながら
そんなことを考えていた。

 

 

傘を買う理由

友人の家でなんとなくだらだら過ごした後
なんだか小腹が空いたと主張したら
「何か作ろうか?」と言ってくれたが
手間をかけさせて悪いかなと思い
「外で食べたい」というの一言で
外食をすることになった。

来た時は晴れていたのに
今はどんより曇り空。

「なんだか雨が降りそうだね
 傘もってきてないや」
その言葉が引鉄になったのかどうか
それはわからないが、友人が話し始めた。

 「傘を買う彼氏が許せなくてさ」

 

数日前の話。
友人とその彼氏は、私たちと同じように
友人の家を出発したところだった。

駅までは歩いて10分。
家を出て5分くらいしたところで
ポツポツ雨が降ってきた。

「家に戻って傘を取りに行こう」

友人が彼氏にそう提案すると

「今から戻るの面倒くさくない?
 必要だったら途中で買おうよ」

彼氏はそう答えた。

「5分戻れば家に傘があるのに
 わざわざ買うの勿体無くない?」

「その5分戻るのが面倒くさいし
 傘はそんなに高いものでもないじゃん。
 買ったら買ったでいつかまた使えるし」

 

「で、ケンカになったわけか」

「どう思う?」

私だったら傘も買わずに雨の中走って
結局ずぶ濡れになって風邪をひくと思うが
おそらくそんな答は求められていない。

ここでは友人かその彼氏かどちら側か
友人にとってはそれが大切なので
私がどちらに近いかと考えると…

「彼氏のほうに近いかな」

「そっか」

「でも、どっちの気持ちもわかるよ。
 どっちが正しいかはわからないけど」

それは傘に対する考え方の違いだと思う。
友人は傘を所持品として考えているけど
彼氏や私は消耗品として捉えている。
私はメガネや上着だったら家に戻るけど
ティッシュやタオルだったら戻らない。

そして家からまた戻るまでの10分間を
どう捉えているかの違い。
彼氏や私は、その10分という時間と手間を
1,000円程度のお金で買うことになる。
「高速バスより新幹線を使うとか
 時間をお金で買ったりするじゃん?」

私はなぜか自分にフォローを入れた。

「調べてみたんだよ」

「何を」

 

「そういうとき傘を買う人と
 傘を取りに戻る人の違い」

 

そういえば友人はそういう奴だった。
他人と意見が食い違ったり
何か納得がいかないことが起こると
徹底的に証拠を探し出すのだ。

「そこで面白いことがわかった」

「なに?」

 

「傘を買う人はお金が貯まらない」

 

見透かされた気がした。

「別に買う人が皆そうじゃないけど
 家にビニ傘が溜まるような人は
 お金が溜まらない傾向にあるらしい」

「ある。3本ある」

「そして傘に始まったことじゃない」

そういう風に傘を買うような思考の人は
携帯の充電器とか、そういった類の
小さい買い物を知らず知らずに買って
それが積み重なって結局無駄遣いする。

「だから、簡単に傘を買う人は
 お金が貯まらないらしいよ」

 「特に反論はありません」

「その解説が書いてあるサイトの
 リンクを送ってあげようか」

「大丈夫です心に刻みました」

 

またひとつ。
自分のダメな部分が露呈した気がして
入った店でご飯を食べながら
ほんの少し落ち込む。

そして、友人にまたダメなところを
知られてしまったな、とも思う。

「でも、わからないことがある」

「わからないこと?」

「友達がそうだった場合は
 別になんとも思わないのに
 彼氏がそうだったときは
 なんだかそれが許せない。
 なぜ許せないのかが、わからない」

 

ああ。
それは多分わかるよ。

大切な人とだったら
自分が大事だと思ってる価値観は
共感してもらいたいよね。

共感できなくても
お互いの価値観を理解したいのに
わかろうとしなかった彼氏と
うまく伝えられなかった自分が
なんだかやるせなくて
寂しくなっちゃったんじゃないかなぁ。

「彼氏のことが、大切なんだね」

と、だいぶ端折って伝えた。

 

ご飯を食べて友人と別れ
駅に着くころには雨が降り始めた。

 

傘は買わずに、バスを待つことにした。

 

 

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