ゲイがつらつらと書くブログ。

雨、逃げ出した後

大学時代は遠距離恋愛をしていた。

当時お付き合いしていた彼は電車で3時間かかる距離に住んでいた。彼は仕事が忙しく、来てもらうことが難しかったため、少しでも交通費を浮かしたかった大学生の私は、5時間かけてバスに乗って向かっていた。金曜の深夜にバスに乗り、土曜の早朝に着く。早朝に着いた私は、1人でカラオケに行って、仮眠をとって、時々歌って、彼と会える時間まで待っていた。1人カラオケが最初は恥ずかしかったが、何度かそうしているうちに、1人で受付に向かうことが苦では無くなっていった。

 

そんな私だが、1人で映画館に行くのはまだしたことがなく、けれど久しぶりに映画を観に行きたいと思った私は、友人に連絡をとった。公開してからだいぶ時間も経ち、もしかしたら友人はもう観てしまったかなと思っていたが、友人もまだ観ていなかったようで、一緒に映画を観れることになった。4月に友人と会ってから、ゲイの友人や知り合いとは誰も会っておらず、2か月ぶりの予定に私は小躍りした。

私がどうしても映画館で観たいと思っていたのは、エヴァであった。中学生の頃からTVシリーズを観てきたし、映画は必ず映画館で観てきた。今回で締めということもあり、観に行きたかったのだが、一緒に行く友達…もとい気軽に声を掛けられる人が居なかったので映画館に行けずにいた。単発モノならまだ声をかけやすいのだが、ただでさえ理解が難しい上にこれまでの流れを知らないと楽しめないことは明らかであろう映画に誘うのはグッとハードルが上がる。ゲイに限らず、人は趣味が近しい人同士で繋がる傾向にあると思っているので、そんな繋がりの人たちで行くのだろうと思うし、そこへポッと出の私が参加すると逆に気を遣うし遣われてしまうので、最悪1人で行こうかと考えていた。

声をかけた友人は、気心が知れているものの、そもそもエヴァを知っているのかどうかわからなかったので、声をかけるのを躊躇っていた。知ってたらもう観に行ってるよな、と勝手に思っていたので、半ばダメ元で聞いた。優しい友人のことなので付き合ってくれるかも、という期待もあったが、偶然にもお互い観ていなかったので、私はその偶然に感謝した。

 

友人とは新宿で落ち合った。観る前、これまでの内容を忘れてしまったから映画を家で観て復習してきたと友人は言った。友人は相変わらずストイックである。私はどうせ半分くらいは理解できないんだろうなと、観る前から理解を諦めていた。私にとっては、観て内容を咀嚼することよりも、これまで観てきた1つのアニメを締めくくれる、ということが大事であった。

内容については割愛する。考察は沢山されているので、他を参考にしていただきたい。唯一述べるとしたら、私は年をとったのだなと思う。シンジ達パイロットと同年代だった昔の私、年をとらないシンジ、大人になっていく周りの友達、いつしか私は、シンジの目線ではなく、周りの大人たちと同じ目線になっていたことに気付いた。あの頃シンジと同じように悩んでいた私は、悩みを解決できずとも咀嚼して消化できるようになっていた。それは時間なのか、経験なのか、別の何かなのかはわからないが、私は昔のままではなくなっていたんだと、エンドロールを観ながら映画館の椅子にもたれていた。

 

映画のあとはたこ焼きを食べ、友人の買い物に行き、夕飯を食べながら色々と話した。

以前から友人はカメラが趣味だったが、最近はモデルの撮影をしているらしい。とあるモデルの撮影をして、ツイッターに載せて貰ったところ、フォロワーが爆上がりした、と言った。モデルって、裸とかとるの?と聞いたところ、そうだよ、と言っていくつか見せてくれた。私のタイムラインでも流れてきたことがある、たぶん有名な人であった。相変わらず趣味を活かすのが上手である。

 

私はと言えば、職場の後輩を可愛がっている。

職場が激務だという話はこれまで散々記していたが、3月に新しく2人就任し、私の部署は7人から9人体制になった。これで少しは楽になるかと思っていた矢先、10年間勤めていた部署のリーダーが3月に退職し、更に去年の秋に部署に来てようやく慣れてきた面倒くさい系女子が異動し、また7人となってしまった。私は就任してから1年と少しであるが、7人の中では古いほうから考えて4番目となり、部署全体でも2年以上部署にいるのは今年8年目の1人だけ、というほぼ新規で固められた部署となっており、結成当時のカントリー・ガールズを彷彿とさせた。私の職場は新卒は採らず、全員中途採用なので基本的に20代は居ない。3月に新しく就任した2人も、1人は私と同い年の女性、もう1人は30代前半の男性で、彼は部署の最年少となった。

最年少で後輩になる彼は愛嬌があり、仕事もまずまず出来るが、職場環境に疲れていた。私の部署の人達は基本的には優しい人たちなのだが、気遣いが下手である。それは仕事の振り方だったり、言い回しだったり、人当たりだったり。本人にそのつもりが無くても、不器用で伝え方が上手くない為、意図とは違う受け取り方をされたり、人間関係を拗らせたりする。部署は同じだが、私は他の同僚とはフロアが異なるので、近くでフォローができない。そして彼はその中で揉まれ、疲れた顔で私の席に救いを求めて来る。その度に、私はデスクにしたためているお菓子をあげて、コーヒーを淹れる。彼はおそらく今後重要な人材になる。同僚には甘やかしすぎと遠回しに言われたが、彼が居なくなることは、当面避けたい。

就任当初から、彼はゲイっぽいなと思っていたが、ひょんなことから彼がゲイであることがわかった。可愛がっていることを友人に伝えたら、「それ彼がゲイじゃなくても同じことする?」と訊かれた。一瞬、答えに詰まったが、「すると思う」と私は答えた。何度か仕事終わりに一緒に飲みに行ったが、彼にはそれは伝えていないし、私のことも伝えていない。いつかそのタイミングが来たら伝えれば良いし、ずっと知らないままでもいい。ただ、彼が独りで抱えたり、悩んだり、傷ついたりしないよう、私は彼を守りたいと思う。

彼を守る余裕が同僚に無い今、彼はシンジ君であり、私はミサトさんなのである。来週もまた、彼は私のところに来るのだろう。ある日突然家出してしまわないよう、彼の背中を押す代わりに、私はまたお菓子を出し、コーヒーを淹れるのだ。それは私が1年前に誰かにして欲しかったことであり、私が欲しかった居場所でもある。

「君は、入社の面談の時から、良くも悪くもこだわりが無かったね」と、直属の部長に面談で先日言われた。「結婚とか、子供とか、背負うものが出来ると、物の見方も変わるかもしれないね」とも。これまで職場を転々としてきて後輩ができることはほぼ無かったが、ここに来て初めて守りたいと思うものができた。無我夢中に働く私はこれから変わっていくのだろうか。それとももう変わっているのだろうか。そこで変わりたいとか、変わりたくないとか、そう考えない私はやはりこだわりが無いのだろう。人に認めてもらうために仕事をする私は、まだまだシンジのままなのかもしれない。

 

友人とご飯を食べた後、新宿を後にした。

1つのシリーズを観終えた爽快感と喪失感を反芻しながら、雨が降りそうな帰り道を早足で歩いた。やりたいと思っていた新しいことを、始めようかな。と、帰宅した私はPCの電源を入れるのであった。

 

 

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