傘を買う理由

友人の家でなんとなくだらだら過ごした後
なんだか小腹が空いたと主張したら
「何か作ろうか?」と言ってくれたが
手間をかけさせて悪いかなと思い
「外で食べたい」というの一言で
外食をすることになった。

来た時は晴れていたのに
今はどんより曇り空。

「なんだか雨が降りそうだね
 傘もってきてないや」
その言葉が引鉄になったのかどうか
それはわからないが、友人が話し始めた。

 「傘を買う彼氏が許せなくてさ」

 

数日前の話。
友人とその彼氏は、私たちと同じように
友人の家を出発したところだった。

駅までは歩いて10分。
家を出て5分くらいしたところで
ポツポツ雨が降ってきた。

「家に戻って傘を取りに行こう」

友人が彼氏にそう提案すると

「今から戻るの面倒くさくない?
 必要だったら途中で買おうよ」

彼氏はそう答えた。

「5分戻れば家に傘があるのに
 わざわざ買うの勿体無くない?」

「その5分戻るのが面倒くさいし
 傘はそんなに高いものでもないじゃん。
 買ったら買ったでいつかまた使えるし」

 

「で、ケンカになったわけか」

「どう思う?」

私だったら傘も買わずに雨の中走って
結局ずぶ濡れになって風邪をひくと思うが
おそらくそんな答は求められていない。

ここでは友人かその彼氏かどちら側か
友人にとってはそれが大切なので
私がどちらに近いかと考えると…

「彼氏のほうに近いかな」

「そっか」

「でも、どっちの気持ちもわかるよ。
 どっちが正しいかはわからないけど」

それは傘に対する考え方の違いだと思う。
友人は傘を所持品として考えているけど
彼氏や私は消耗品として捉えている。
私はメガネや上着だったら家に戻るけど
ティッシュやタオルだったら戻らない。

そして家からまた戻るまでの10分間を
どう捉えているかの違い。
彼氏や私は、その10分という時間と手間を
1,000円程度のお金で買うことになる。
「高速バスより新幹線を使うとか
 時間をお金で買ったりするじゃん?」

私はなぜか自分にフォローを入れた。

「調べてみたんだよ」

「何を」

 

「そういうとき傘を買う人と
 傘を取りに戻る人の違い」

 

そういえば友人はそういう奴だった。
他人と意見が食い違ったり
何か納得がいかないことが起こると
徹底的に証拠を探し出すのだ。

「そこで面白いことがわかった」

「なに?」

 

「傘を買う人はお金が貯まらない」

 

見透かされた気がした。

「別に買う人が皆そうじゃないけど
 家にビニ傘が溜まるような人は
 お金が溜まらない傾向にあるらしい」

「ある。3本ある」

「そして傘に始まったことじゃない」

そういう風に傘を買うような思考の人は
携帯の充電器とか、そういった類の
小さい買い物を知らず知らずに買って
それが積み重なって結局無駄遣いする。

「だから、簡単に傘を買う人は
 お金が貯まらないらしいよ」

 「特に反論はありません」

「その解説が書いてあるサイトの
 リンクを送ってあげようか」

「大丈夫です心に刻みました」

 

またひとつ。
自分のダメな部分が露呈した気がして
入った店でご飯を食べながら
ほんの少し落ち込む。

そして、友人にまたダメなところを
知られてしまったな、とも思う。

「でも、わからないことがある」

「わからないこと?」

「友達がそうだった場合は
 別になんとも思わないのに
 彼氏がそうだったときは
 なんだかそれが許せない。
 なぜ許せないのかが、わからない」

 

ああ。
それは多分わかるよ。

大切な人とだったら
自分が大事だと思ってる価値観は
共感してもらいたいよね。

共感できなくても
お互いの価値観を理解したいのに
わかろうとしなかった彼氏と
うまく伝えられなかった自分が
なんだかやるせなくて
寂しくなっちゃったんじゃないかなぁ。

「彼氏のことが、大切なんだね」

と、だいぶ端折って伝えた。

 

ご飯を食べて友人と別れ
駅に着くころには雨が降り始めた。

 

傘は買わずに、バスを待つことにした。